ジャクリーヌ・メスマケール
Introductions roses (Poire pétrifiée)
1995-2023
バライタ紙にアーカイバルピグメントプリント。アーティスト指定のブナ材で額装
14 x 17.3 cm
額付き
限定24部、作家によるサイン・ナンバリング入り作品証明書付き、アーティストプルーフ3部、版元プルーフ3部
関連エディション:Introductions roses (Stèle)
1995年、ジャクリーヌ・メスマケールは1週間をかけて、自身のアパート内の壁や床、そしてコレクションしたオブジェやアンティークにできた隙間のいくつかをピンクのコットンを使って埋めていた。そうすることにより、彼女の日常空間をある種のキャンバスへと転換したのだ。メスマケールはそしてこの埋め込まれた線や点の写真を撮り、数年ののち、「Introductions roses」というタイトルのスライドショー作品として発表した。また、これを機に、ピンクの布が埋め込まれたオブジェも発表されている。
この「Introductions roses」シリーズは、メスマケールにとって確実に象徴的な作品の1つである。彼女はドローイングを伝統的な手法としてではなく、彫刻、建築、文学やその他のメディアへ侵食し、緩やかに干渉するための拡張ツールとして捉えており、このシリーズはこんな彼女独特の観念をまさに体現している。例えば、「Introductions roses (Stèle)」に使用された木製ブロックは、元々はメスマケールが教えていたデッサン教室で使用されていた模型である。裂け目を色で埋めることで線の持つ物質性を浮き立たせ、アートスクールの学生たちの「表象」との格闘を匂わせている。
ほとんど目に入らないような布を挿入するというさりげない行為は、メスマケールのキャリアに通底する「秘密」という要素とも呼応する。アートシーンの周縁部に数十年もの間留まっていた彼女は、ごく最近までほとんど誰にも注目されてこなかった。ただし彼女はこの状況を、自分を苦しめるものとして捉えず、代わりに、それを自身の仕事の中心に据えたのである。メスマケールは様々な方法を使い、見る者の視線を、ほぼ感知できないほどの光や形、気づかれることのない現象、忘れられたストーリー、見過ごされてきた過去の作品などに向けさせてきた。「Introductions roses (Poire pétrifiée)」においてメスマケールは、叔母から受け継いだ19世紀半ばのオブジェに光をあてている。家族の言い伝えによるとこの洋梨は、石灰水に漬けられた状態のまま化石化したとされる。加えられたピンク色は、洋梨を、果物としてというより、付随するストーリーや思い出としてこそ生き返らせようとする試みなのである。
ジャクリーヌ・メスマケールの展示は2023年3月15日 から4月14日の期間、Keijibanにて行われました。