ローレンス・ウィナー
ENOUGH
2021
マット紙にオフセット印刷のポスター。マット、グロス混合仕上げ。
79 × 111.7 cm
限定25部、作家によるナンバリングとオリジナルのハンコによるスタンプ入り作品証明書付き、アーティストプルーフ8部
ローレンス・ウィナーのアート作品制作の根幹を成す考えには「翻訳」がある。世界中で数多く開かれてきた展覧会において、ウィナーはしばしば現地の言語(やそれとの組み合わせ)によるテキストを用いたインスタレーションを発表し、文章が他の言語に置き換えられた時に起こる意味の変化を作品に包含してきた。
彼の膨大な作品群を通して、ウィナーは「翻訳」という言葉により広い意味を与えてもいる。一つの言語から別の言語へ言葉が変換されるという点に留まらず、彼は、言葉が別のメディアや物質、組み合わせ、スペース、文化などに変換される様に強い関心を向けてきた。「置き換え」の達人であるローレンス・ウィナーは、形やアイディアというものは伝達してこそのものであるというコスモポリタン的なアートの解釈を常に推し進めてきた。
この意味で、Keijibanのために制作されたこのエディション作品は、観る者の経験や状況により様々な解釈を呼び起こす。英語と日本語の表記(「enough」と「足りる」)は翻訳としては正確なものであるものの、必ずしも入れ替え可能なものではないという点には留意されたい。それぞれの単語にはそれぞれの存在感、色合い、形、そして意味領域があり、「足」という漢字が使われているだけに、わずかな領域でのみ足並みを揃えているだけなのである。
Keijibanのために選ばれた「enough」という言葉は、屋外の掲示板であるKeijibanのあり方そのものにも直接関わっている。美術館の壁やビルボード、マンホールカバーや船、旗、帽子など様々な場所に作品を展示してきたウィナーにとって、このエディション作品は皮肉な意味であれ、共感的な見方であれアート展示をする場としての(Keijibanの)ミニマルな条件への言及であるとも言える。
最後に、残念ながら「ENOUGH」はローレンス・ウィナーの最後の作品、そして最後の言葉の一つになってしまったが、この言葉は力強く、私たちの心に明瞭に響き続けることだろう。そしてそれは彼の輝かしいキャリアや、単純明快であること、明晰性、熟慮や崩壊に基づく彼の哲学とも完璧なまでに共鳴している。
ローレンス・ウィナーの展示は2021年10月15日から11月14日の期間、Keijibanにて行われました。