三輪 美津子
The Man of the Crowd
2024
アーカイバル・ピグメント・プリント (マット付き)
12.7 x 17.5 cm
限定15部、アーティストによるサイン・ナンバリング入り、アーティストプルーフ3部、パブリッシャープルーフ2部
Price
¥44,000
エディション
このエディションには、群衆の中を歩く人物の写真が収められている。その人物は、エドガー・アラン・ポーの短編小説『群集の人』のタイトルが記された長いシャツを身にまとっている。この小説では、語り手が群衆の中に奇妙な表情をした老人を見つけ、彼の行動を理解しようと後を追うが、結局その本質を捉えることはできない。物語は、我々が世界や人間を認識し、理解することができるのかということに対して疑問を投げかける。ボードレールやヴァルター・ベンヤミンをはじめとする思想家たちは、この作品に触発され、近代的主体性についての考察を深めた。
この写真では、作家自身が『群集の人』を体現している。ジェンダーニュートラルな日本語のタイトルが、それを可能にしているのだ。彼女は、観る者に背を向けた不確定な存在でありながら、白い衣服によって群衆の中で際立つ存在となっている。そして、我々鑑賞者は、語り手の視点を担うことになる。まるで、捉えどころのない神秘的な存在を執拗に見つめる覗き魔のように。しかし、物語の結末が示唆するように、「群集の人」は単なる幻影、あるいは、語り手自身の鏡像に過ぎないのかもしれない。そう考えるなら、作家と鑑賞者もまた、同じコインの裏表なのではないか。分身や捉えがたい存在というテーマは、三輪美津子の作品全体と響き合い、見事に共鳴している。