ライアン・ガンダー
The strangeness gets more ordinary (Poster encounter)
2021
「おかしなことが普通になってきたな」というフレーズはライアン・ガンダーが幼少のころからよく耳にしてきたものである。彼の父が、彼自身に対してとも家族に対してともつかずよく口にしてきた、「目を休めているだけだよ」「この世界はなるようになるさ」などの “言い習わし” の一つだ。
ガンダーはこの後者のフレーズをすでにポスター、屋外広告、ウォールペインティングなどアートスペースの内外で作品に使用している。
また実際に、娘たちと共に、採集した石を基にフォントをデザインしたり、「ネズミ哲学者」がギャラリーの壁から頭を突き出す際の声を一緒に記録するなど、彼は自身の家族からインスピレーションを得たり、共に様々な制作を行ってきた。ただしこれは私生活や家族史を提示する試みではない。むしろ創造性をあらゆるところから―例えば子供の手の中や年長者の言葉の中に―見つけ出し、そこに価値を見出す営みなのである。ガンダーは、自分自身の経験に重きを置く代わりに、ありふれたものや日常的な感覚と戯れる。「おかしなことが普通になってきたな」は一般的呼称としての「父」の言葉として、すべての人に開かれ、共感しうる表現となっている。
こうした “言い習わし” は日常的な感覚の典型的な産物である。現実と折り合いを付けたり、予想もつかない出来事や言動に対応するため、繰り返し言うことで安心感を得るためのものである。その意味では、「おかしなことが普通になってきな」は、わずかな不安を感じさせながらも同時にそれを乗り越えるための理性も暗示されているという点において、おそらく最も純粋な “言い習わし” と言えるだろう。ガンダーにとっては、この災禍の時代にもっとも適した言葉と言えそうである。
ライアン・ガンダーの展示は2021年9月15日から10月14日の期間、Keijibanにて行われました。